肛門感染症について
ウイルスや細菌、真菌(カビ)などの病原体の感染によって起こる肛門の病気を、肛門感染症と言います。
出血、痛み・かゆみ、腫れ、膿瘍、便失禁など、さまざまな症状が見られます。肛門の症状は日常生活中でもストレスとなり、QOLを低下させます。肛門感染症の予防には、良好な衛生環境、安全な性行為、適切な肛門周辺のケアが重要です。不快感や異常を感じた場合は、早めに医療機関を受診することが推奨されます。
肛門感染症は多様で、治療法や予後もさまざまです。特定の症状や疑問がある場合は、医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが重要です。恥ずかしさ、プライバシーに十分に配慮した診療を行いますので、症状にお困りの方はぜひ当院にご相談ください。
肛門カンジダ症
肛門カンジダ症は、カンジダという種類の真菌(カビ)が原因で肛門周辺に感染を起こす状態です。
カンジダ菌は人間の体内に自然に存在し、通常は健康に影響を与えることはありませんが、免疫力が低下したり、抗生物質の使用などで体内の微生物バランスが崩れたりすると、過剰に増殖して感染症を引き起こすことがあります。
原因
ストレス、疲労などによる免疫力の低下、長時間の湿気や汗をはじめとする肛門周囲の不衛生、不規則な生活習慣などが主な原因となります。
症状
- 肛門の湿疹に伴うヒリヒリ感、痛み
- 肛門の水ぶくれ、かゆみ
- 肛門周囲の皮膚の肥厚
- 出血、化膿
夏場に汗をかいたまま放置するなど、蒸れた状態が続くと増殖が活発化し、症状が悪化します。
治療方法
主に、抗真菌剤を使った薬物療法を行います。抗真菌薬の局所塗布(クリームや軟膏)がメインの治療ですが、重症または反復性の感染の場合には、抗真菌薬の飲み薬を使用することもあります。患部を清潔かつ乾燥に保つ
ことや、綿製の通気性の良い下着を使用しておしりの蒸れを防ぐことも大切です。
尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルスの感染によって引き起こされる性感染症の一つです。肛門周辺、外陰部、陰茎、膣内、時には口腔内にも発生します。一般的には、性的接触によって伝播し、皮膚や粘膜の小さな傷からウイルスが体内に侵入することで感染します。肛門周囲にいぼ状の突起が見られます。
性感染症ですので、必ずパートナーの方にも受診を勧めてください。
原因
ヒトパピローマウイルスの感染の多くは、性行為によって起こります。コンドームの使用は感染リスクを低減しますが、皮膚対皮膚の接触によっても伝播するため、完全な予防にはなりません。ご自身やパートナーの方が感染状態のときは、性行為は避けてください。
症状
- 肛門周囲のいぼ状の突起
- 突起の色は白・ピンク・茶・黒などさまざま
- 突起の増大、増殖
- 突起がくっつき、カリフラワー状になることも
痛み・かゆみといった症状をきたす場合もあります。
治療方法
肛門周囲の皮膚のみで尖圭コンジローマが認められる場合には、外用薬を用いた薬物療法の適応となります。
外科的に切除・焼灼・凍結することもあります。ただし、ウイルスが残存する可能性もあり、再発するケースが多いため数カ月は定期的なフォローが必要となります。梅毒やHIVとの合併感染もありえますので、それらの検査もおすすめさせて頂く場合があります。
肛門ヘルペス
肛門ヘルペスは、主に単純ヘルペスウイルス(HSV)タイプ1またはタイプ2によって引き起こされるウイルス感染症です。一般的に、性的接触によって伝播しますが、オーラルセックスや、感染した個人の皮膚や唾液との直接接触によっても感染することがあります。肛門ヘルペスは、肛門やその周辺に潰瘍や水疱を形成することが特徴で、痛み、かゆみ、排便時の不快感などの症状を引き起こすことがあります。
原因
ヘルペスに直接触れたり、性行為をしたりすることで感染します。そしてストレスや疲労で免疫力が低下した時に症状が現れます。感染している場合は、症状がある間は性的接触を避けるようにしてください。
症状
- 肛門の水ぶくれ
- びらん、ピリピリとした痛み
- 肛門のかゆみ
- 少量の出血
- 下痢、便秘
初回の感染・発症の場合、症状が強く現れる傾向があります。痔だと思って受診される方も少なくありません。
治療方法
抗ヘルペスウイルス薬の外用・内服により、多くは数日で症状が改善します。多くは紅斑や褐色の色素沈着を残して治癒します。
ただし、完全にウイルスを排除することはできず、しばしば同部位に再発するため、症状が治まってからも経過観察をしていきます。
膿皮症
膿皮症は肛門部の汗腺周辺で起こる炎症であり、しばしば患部から膿を伴うことがあります。この状態は、肛門周囲だけでなく、脇の下、鼠径部、乳房下などの皮膚が摩擦しやすい部位にも発生することがあります。若い男性に好発し、一定の割合で痔ろうを合併します。
原因
アポクリン汗腺炎、毛嚢炎、炎症性粉瘤などがあり、そこにお尻の圧迫が加わることで炎症が徐々に拡大し、発症します。
症状
- 初期はかゆみ、その後痛みへ
- 皮膚の肥厚
- 皮膚の黒色への変色
- 皮膚に小さな穴があき、膿が出る
膿皮症は、ごく稀にがん化します。症状に気づいたら、お早めにご相談ください。
治療方法
膿が溜まっている場合には切開して排膿を行います。根治のためには入院の上、手術を行う必要があります。
手術では、病変部を切除します。広範囲に及ぶ場合には、植皮が必要になることもあります。
痔ろうを合併している場合には、その治療(手術)も一緒に行われます。
肛門周囲膿瘍
肛門周囲膿瘍は、肛門管から細菌が侵入・感染し、直腸や肛門の周りに膿を形成する病気です。
初期症状は肛門周りの皮膚の痛み、腫れですが、進行すると膿が大きくなり骨盤周囲の鈍痛や背中の痛み、発熱が見られることがあります。
原因
下痢、排便時のいきみなどを原因として、肛門の歯状線のうちがわのくぼみ(肛門陰窩)に細菌が入り込み、膿瘍が形成されます。
他にも以下のような要因が関与することがあります。
- 慢性的な炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎など)
- 外傷や手術による損傷
- 皮膚の下の深い毛穴や汗腺の感染
症状
- 肛門周囲に膿瘍ができる、膿が出る
- 肛門周囲の腫れ、痛み
- 38度以上の高熱
発熱もあり、とても辛い病気です。できるだけ早く、当院の肛門科にご相談ください。
治療方法
肛門周囲膿瘍と診断したら、できるだけ速やかにメスによる切開をして膿を排出することが原則です。糖尿病や免疫系の疾患など、全身性の感染に移行するリスクが高いと考えられる場合は、抗菌薬内服を行います。
膿の量が多い場合には、入院をして排膿処置を行うことがあります。
梅毒
近年、若い世代を中心に増加している性感染症です。特に女性の患者さんが増えていると言われています。梅毒スピロヘータが傷のある皮膚や粘膜と接触することで感染します。HIVに感染しやすくなったり、女性の場合は出産時に赤ちゃんが先天性梅毒になる可能性があったりと、重大なリスクをはらみます。
早期診断・早期治療でそれ以上感染を悪化させないことが重要ですので、心当たりがある場合はお早めにご相談ください。
原因
主に性行為によって、感染力の高い梅毒トレポネーマに感染することで発症します。
症状
【第1期】
感染後3週~3カ月
- 性器、肛門、口唇の3mm~3cmの硬いしこり
痛みはほとんどありません。3~12週で一度症状が消失しますが、梅毒トレポネーマは血管に存在します。
【第2期】感染後3カ月~
- 顔、上半身の豆粒大の盛り上がり(丘疹性梅毒疹)
- 全身の赤いバラのような発疹(梅毒性バラ疹)
- 性器、肛門周囲のピンクまたは灰色のイボ(扁平コンジローマ)
- のどの痛みや腫れ(梅毒性アンギーナ)
- 頭部、眉の脱毛
- リンパ節の腫れ、発熱
- 倦怠感、筋肉痛
- 頭痛
- 食欲不振、体重減少
第1期と同様、症状は半年ほどで消失しますが、梅毒トレポネーマの感染は続いています。
【第3期】感染後3年~
- 全身にゴムのような腫瘍が発生(ゴム腫)
- ゴム腫が内臓に発生し、潰瘍になることも
第2期の症状が消失した後、数年ほどの無症状の期間を挟んで、ゴム腫が現れます。ゴム腫は、周囲の組織を破壊していきます。
【第4期】感染後10年~
- 心臓の血管の狭窄、心臓弁の損傷
- 心不全、心臓発作
- 記憶障害、妄想
- 身体の痛み、歩行障害
- 排尿障害
現代日本で第3期、第4期まで進行する例はほとんどありませんが、上記のように健康に多大な影響を及ぼします。そして最悪の場合には、命を落とします。
治療方法
ペニシリン系の抗菌薬の内服を行います。
第1期または第2期であれば、1日3回、2~8週間ほど内服を継続します。自己判断で内服をやめると、完治しないことがあるため注意が必要です。
第3期に進行している場合には、10日~2週間程度の抗菌薬の点滴が必要になります。